2026-05-11 16:57:19 日本ビジネス法講座
日本で株式会社を設立する際、必ず定款を作成しなければなりません。定款とは、会社の名称・目的・組織・運営ルールなどを定めた、いわば会社の「憲法」。会社のあらゆる意思決定は、最終的にこの定款の枠内で行われます。
1.定款の記載事項と作成プロセス
定款の記載事項は、大きく2種類に分かれます。
1つ目は「絶対的記載事項」です。これは法令上必ず記載しなければならない事項で、会社の目的・商号・本店所在地・設立に際して出資される財産の価額・発起人の氏名等が該当します。これらが欠けると定款自体が無効となります。
2つ目は「相対的記載事項」です。記載がなくても定款が無効になるわけではありませんが、定款に明記して初めて法的効力が生じる事項です。株式の譲渡制限などが代表例です。
定款の作成プロセスとしては、まず発起人が定款を作成し、公証役場で公証人の認証を受ける必要があります。この認証を経て初めて定款は法的に有効となります。電子定款での作成も認められており、その場合は紙の定款で必要となる収入印紙代(4万円)が不要となります。
2.定款は非公開
日本の登記制度では、会社の名称・所在地・役員・資本金などは登記簿に記載され、誰でも閲覧できます。しかし、定款はその対象外です。定款は設立時に公証役場で認証を受けますが、一般には公開されず、取引先や競合他社が自由に閲覧することはできません。
ただし、株主は会社に対して定款の閲覧・謄写を請求できます(会社法31条)。また、設立時の定款(原始定款)は、公証役場での謄本交付請求が可能です。「非公開」とはいえ、完全に秘密というわけではない点は押さえておきましょう。
3.外国企業が特に注意すべきポイント
(1)会社の目的
定款には、会社が行う事業の内容を「目的」として具体的に記載する必要があります。会社は定款に記載された目的の範囲内でのみ事業活動を行うことができるのが基本的な考え方です。そのため、将来展開する可能性のある事業はあらかじめ目的に含めておくことが実務上重要です。
一方で、目的の記載が曖昧すぎると、登記申請時に法務局から補正を求められることがあります。「具体性があり、かつ将来を見据えた目的設定」が、定款作成における最初のポイントです。
(2)株式の譲渡制限
多くの非上場会社では、定款に「株式を譲渡するには取締役会(又は株主総会)の承認を要する」旨を定めています。これにより、見知らぬ第三者が勝手に株主になることを防ぐことができます。
外資系企業が日本法人を設立する場合も、この規定を設けることが一般的です。ただし、株式を親会社グループ内で移転する場合など、例外規定を設けるかどうかは、グループの資本政策と合わせて検討する必要があります。
(3)定款に載らない情報――株主の名前は見えない
定款が「会社の憲法」と聞くと、会社に関するあらゆる情報が記載されていると思うかもしれません。しかし、意外にも載っていない情報があります。それが「株主の名前」です。定款に記載される人名は、会社設立時の発起人(Incorporator)のみです。設立後に株主が変わっても、その情報は定款には反映されません。さらに、株主の情報は登記簿にも記載されません。日本では、株主名簿は会社が内部で管理するものとされており、外部からは原則として確認できません。「誰がこの会社の株主なのか、登記を見ればわかるのでは?」と考える外国のビジネスマンは少なくありませんが、日本の仕組みはそうなっていません。株主構成を確認したい場合は、デューデリジェンスのプロセスを通じて会社が管理する株主名簿の開示を受けるのが通常です。
4.定款に英文を併記できるか
外国企業からよく聞かれる質問のひとつが「定款を英語で作れますか?」というものです。結論としては、法的に有効な定款は日本語で作成する必要があります。英文を併記した「日英対訳定款」を作ることは可能ですが、法的効力を持つのは日本語部分です。万一内容に齟齬が生じた場合は日本語が優先されます。
とはいえ、英文対訳を社内資料や親会社への報告用に用意しておくことは実務上とても有用です。日本に不慣れな本国スタッフや取締役との情報共有がスムーズになります。
5.定款変更のプロセス
定款は「会社の憲法」です。憲法がそう簡単に書き換えられてはならないように、定款の変更にも厳格な手続きが求められます。
具体的には、株主総会の特別決議が必要です。これは「議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成する」という、通常の決議よりもハードルの高いプロセスです(会社法466条、309条2項11号)。経営陣が単独で変更できるものではなく、株主全体の合意形成が前提となります。
また、変更内容が商号・本店所在地・目的など登記事項に関わる場合は、登記変更の手続きも必要です。変更後の定款は社内で適切に管理・共有しておくことも重要です。
6.まとめ
定款は会社の根本ルールを定めた最重要文書ですが、その内容や扱いは国によって大きく異なります。日本では、目的の設定・株式譲渡制限の設計・変更手続きの理解が実務上特に重要です。また、「定款を見れば会社のことが全部わかる」わけではない点(特に株主情報が外部から見えないという仕組み)は、日本ビジネスを理解するうえで押さえておきたいポイントです。
おわりに
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