SERIES 2-07: コンプライアンスと内部管理

1.コンプライアンス体制構築の重要性

日本の会社法では、大会社に対して内部統制システムの構築を義務付けています。しかし、コンプライアンスが重要なのは大会社だけではありません。中小企業であってもコンプライアンスと内部管理の整備を怠れば企業に深刻なリスクが生じ得ます。

 

内部統制システムの構築義務がない中小企業や、日本に進出したばかりの外資系企業でも同様で、むしろ体制が整っていない企業ほどリスクが顕在化しやすい傾向にあります。特に海外企業は、文化・商慣習・法制度の違いから「本国では問題にならなかったこと」が日本では大きなリスクとなりがちです。本記事では、最低限押さえるべきポイントをトピックごとに解説します。

 

2.留意するべきコンプライアンス項目の具体例

 (1)税務・会計の管理

設立当初は税務・会計が後回しにされがちですが、ずさんな管理のまま売上が拡大すると、ある時点で突然、国税局や(輸出入があれば)税関の調査で申告漏れ等を指摘され、多額の追徴課税を課されることがあります。売上がまだ小さい設立時から顧問弁護士・税理士に関与してもらい、基礎を整えておくことが、将来の大きなリスクとコストの抑制につながります。

 

(2) 営業秘密の管理(退職者による持ち出し)

顧客情報や技術・ノウハウが退職者に持ち出される例は後を絶ちません。

日本の不正競争防止法上、情報が「営業秘密」として法的に保護されるには秘密として管理されていること(秘密管理性)等が必要で、日頃適切に管理していなければ、持ち出されても法的保護を受けられません。NDA・誓約書の締結(入社時・退職時)、マル秘表示とアクセス権限の限定、退職時のデータ返却確認といった管理が重要です。

 

(3)委託先管理(下請法・フリーランス新法)

業務委託には、委託先取引を規律する法律への注意が必要です。いわゆる下請法は代金減額・支払遅延・買いたたき等を禁止しますが、2026年1月に改正・改称され、現在は「取適法(中小受託取引適正化法)」となり規制が強化されました。

また2024年11月施行のフリーランス新法は、個人(特定受託事業者)への委託につき取引条件の明示や報酬の期日内支払(原則60日以内)を義務付け、資本金要件がないため小規模事業者にも適用され得ます。

違反すると公正取引委員会等の指導・勧告や企業名公表のおそれがあり(近年も公表事例が増えています)、契約書・発注書面や支払サイトの整備が求められます。

 

(4)ハラスメント対策

日本では改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法。2022年4月から中小企業も義務化)により、企業にハラスメント防止措置が義務付けられています。注意すべきは、かつて日本でもハラスメントとして認識されなかった行為が近年ハラスメントと評価される点で、海外企業の役職員が悪意なく行った行為がトラブルになることもあります。以下は日本特有の典型例です。

 

事例① 飲み会・飲酒の強要(アルハラ): 懇親会への参加やお酌・飲酒を事実上強制し、断れば「協調性がない」と評価する。かつては「飲みニケーション」として許容されたが、現在はハラスメントに該当し得ます。

事例② 結婚・出産等への言及(セクハラ・マタハラ): 独身社員に「早く結婚しないの?」等と繰り返し発言し、いずれ辞めると決めつけて簡単な仕事しか任せない。本人は「気遣い」のつもりでも該当し得ます。

いずれも行為者に悪意がないことが多い一方、日本では従業員側の受け止めが重視されます。リスクは多岐にわたり、①ハラスメントを理由とする労働紛争は少なくなく、従業員が労働基準監督署・労働局に駆け込めば会社は行政対応を迫られます。②被害を訴えた社員を会社都合で解雇すると不利益取扱いとして違法とされやすく、解雇はいっそう困難になります。③放置すれば、会社のみならず取締役個人が善管注意義務違反として損害賠償責任を問われ得ます。④人材流出や口コミによる採用難も生じます。

日本企業では一般に、就業規則・防止規程での禁止行為の明記、相談窓口(通報窓口)の設置、定期的な研修、事実調査・再発防止フローの整備といった対策が講じられています

 

(5)反社チェック

「反社会的勢力(anti-social forces)」とは暴力団やその関係者等を指します。日本では、各都道府県が「暴力団排除条例(暴排条例)」を定め、反社会的勢力の排除を進めています。暴排条例では、事業者に対して、契約を締結する際に反社条項を定めることが努力義務として定められている場合が多いです。

こうした背景から、契約時に相手方が反社会的勢力でないことを確認し(反社チェック)、契約書に反社条項を入れることは、企業規模を問わず一般的な実務となっています。海外企業からすると見慣れない条項かもしれませんが、日本企業と契約を締結する際には、必ずと言ってよいほどこの条項が挿入されます。

 

3.まとめ

「内部管理を怠れば深刻なリスクにつながる」という点は、中小企業や進出直後の外資系企業にとっても他人事ではありません。日本で事業を始める際は、早い段階で弁護士・税理士等の専門家に相談し、必要な内部管理体制を整えておくことを強くお勧めします。

 

 


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SERIES 2-06: 株主総会・取締役会の運営

日本の株式会社における株主総会や取締役会については、日本法特有の制度も多く存在します。また、近年はデジタル化の進展に伴い、株主総会資料の電子提供制度やオンライン参加を前提とした実務対応など、関連する制度・運用も変化しています。今回は、株主総会や取締役会に関する基本的なルールと、オンライン開催等に関する実務上のポイントをご紹介します。

 

1. 1回の定時株主総会とは

日本の株式会社は、毎事業年度の終了後、一定の時期に定時株主総会を招集する必要があります。会社法上、「事業年度末から3か月以内」と直接定められているわけではありませんが、日本の株式会社は、毎事業年度の終了後、一定の時期に定時株主総会を開催する必要があります。実務上、多くの会社では、定款上、定時株主総会の開催時期を事業年度末日(決算日)から3か月以内と定めています。

定時株主総会では、主に、事業年度に係る計算書類の承認又は報告、取締役・監査役等の選任、剰余金の配当その他会社法又は定款上必要とされる事項について決議・報告が行われます。

 

 

3月末決算の会社

12月末決算の会社

事業年度末日(決算日)

3月31日

12月31日

定時株主総会の開催時期

6月末まで

3月末まで

 

2. 決議事項(株主総会および取締役会)

(1)株主総会の決議事項(取締役会設置会社の場合)

株主総会は会社の最終意思決定機関ですが、特に、取締役会設置会社の場合、株主総会でどのような事項でも決議できるわけではなく、決議の対象は会社法または定款に定められているもの(会社の基本構造に関わる重要事項)に限定されています。株主総会の決議事項としては、例えば役員選任、定款変更、剰余金処分などが挙げられます。

(2)取締役会の決議事項

一方、会社の重要な経営判断については、取締役会で決議する必要があります。また、日常業務については代表取締役が単独で執行・代表することができますが、「重要な業務執行」の決定を個々の取締役に委任することはできません(会社法362条4項)。

典型例としては、重要な財産の処分・譲受け、多額の借入れ、重要な人事・組織変更、内部統制システムの整備などが挙げられます。

 

3. 開催方法(株主総会および取締役会)

株主総会、取締役会いずれについても、実際に株主や取締役が集まって開催するのが原則です。しかし、近年ではオンラインでの開催も認められつつあり、そのための手続も用意されています。

 

(1)株主総会のオンライン開催

日本法上、株主総会は原則として物理的な「場所」を定めて開催する必要があるため、非上場会社では、完全オンライン型の株主総会を実施することはできません。もっとも、実務上は、実際の開催場所を設定したうえで、株主がオンラインで参加できるハイブリッド型株主総会を採用することが可能です。

ハイブリッド型株主総会を実施する場合には、通信環境の整備、本人確認方法、質問・動議への対応方法、議決権行使の取扱い、配信範囲、肖像権・プライバシーへの配慮などを事前に整理しておく必要があります。

(2)取締役会のオンライン開催等

取締役は個人的な信頼に基づき株主総会で選任されています。そのため、株主総会の場合とは異なり、取締役に代わって代理人が取締役会へ出席することは認められません。

他方で、取締役が遠隔にいる場合など、取締役会に出席することが困難なこともあります。そこで、オンライン等の方法によって取締役会を開催できるか問題となります。

 

原則

取締役が実際に集まって開催します。

例外1

オンライン会議

音声と映像を送信する方法によるオンライン会議は可能です。

例外2

電話会議

電話会議については、相手の顔が見えず発言者を判別しにくい等の問題がありますが、出席者の本人確認ができ、各取締役が相互に発言を即時に認識し、十分に議論できる状態が確保されていれば、有効な取締役会として扱う余地があります。

例外3

書面決議

定款に定めがある場合には、取締役全員の書面又は電磁的記録による同意により、取締役会を開催せずに決議があったものとみなすことができます。監査役設置会社では、監査役が異議を述べないことも必要です。

 

 

4. 株主総会の議事録作成のルール

株主総会を開催した場合、会社法上、議事録を作成する必要があります。議事録には、主に、開催日時・場所、議事の経過および決議結果、出席役員の氏名、議長の氏名、議事録作成担当取締役の氏名などを記載します。

また、取締役、監査役、会計参与、会計監査人等が株主総会で一定の意見又は発言をした場合には、その概要も議事録に記載する必要があります。

 

英語議事録は有効?

株主総会の議事録について、会社法上、言語についての規定は存在しません。したがって英語等の外国語で議事録を作成すること自体は可能です。しかし、日本の法務局、裁判所、税務署等の機関は、日本語で手続を行うことが前提とされています。そのため、議事録作成にあたっては、日本語版を正本とし、外国語版はあくまでも翻訳として作成することが望ましいでしょう。

なお定款については、英文を併記した「日英対訳定款」を作ることは可能ですが、法的効力を持つのは日本語部分です。万一内容に齟齬が生じた場合は日本語が優先されます。(参考:SERIES 2-03:定款とは何か

 

 

5.まとめ

株主総会や取締役会の権限や手続については、会社法により細かい規定が設けられています。権限逸脱を行ったり手続を誤ったりすると、株主等から訴訟を提起されるリスクもありますので、専門家に相談するなどしながら慎重に会社経営を行うのが望ましいでしょう。

また株主総会・取締役会いずれについても、近年のデジタル化の進歩に伴い、オンライン等で開催することも認められつつあります。

ご自身が日本で会社経営を行う場合や、株主として日本の会社経営に関わる場合、これらの制度の利点やリスクをそれぞれ正確に理解しておくことが肝要です。

 

 


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