日本ビジネス法講座 SERIES 2-01「株式会社の仕組みと法的ポイント」リリースしました。
SERIES 2-01: 株式会社の仕組みと法的ポイント
日本で新たにビジネスを立ち上げる際、広く利用されている法人形態の一つが「株式会社(Kabushiki Kaisha / K.K.)」です。外資系企業の日本進出においては、「合同会社(Godo Kaisha / GK)」が選択されることもありますが、ガバナンス体制構築のしやすさや日本国内での社会的信用等の観点から、依然として多くのケースで株式会社が選ばれる傾向にあります。(参照:SERIES 1-01:日本における会社・法人形態とその特徴)
日本の株式会社は、グローバルなコーポレート・ガバナンスの考え方と共通する点も多いですが、日本の会社法に基づく独自の制度設計と実務運用がなされている面もあります。以下では、日本の会社法に基づく基本的な機関設計と法的留意点について解説します。
1.株式会社の主な機関とその役割
日本の会社法では、所有者(株主)と経営者(取締役)の役割を明確に分離する「所有と経営の分離」を基本としています。ただし、小規模の会社においては、株主と取締役が同一である「所有と経営の一致」が実態として広く見られます。
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名称 |
役割の説明 |
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株主 Shareholder |
会社への出資者であり、最高意思決定機関である株主総会を構成します。会社の根本規則である定款の変更や役員の選任・解任など、組織運営の重要事項を決定する権限を持ちます。 |
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取締役 Director |
株主総会で選任され、会社の業務執行(日常的な経営)の決定と執行を担う機関です。会社との関係は委任契約に基づき、善管注意義務や忠実義務を負います。任期は原則2年(非公開会社では最長10年まで伸長可能)です。 |
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代表取締役 Representative Director |
取締役の中から選定され、会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為について、会社を代表する権限を法定されています。その代表権につき一部制限をつけることも可能ですが、内部の制限を善意の第三者に対抗することはできません。 また、日本の実務上、代表取締役は法務局に会社を代表する印鑑(代表者印)を登記する義務があり、重要な契約においては実印の押印と印鑑証明書の添付が求められるという、日本特有の慣行と密接に結びついています。 |
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取締役会 Board of Directors |
取締役会を設置する場合、取締役は3名以上必要です。 日常の業務執行に関する意思決定は取締役会が行い、業務の執行は代表取締役が担います。組織的な牽制とチェックが働くメリットがあります。 |
2.株主としての有限責任と経営者としての無限責任
株式会社という法人形態を選択する最大のメリットは、株主の「有限責任(Limited Liability)」にあります。万が一、事業が頓挫し会社が破綻して多額の負債が残存したとしても、株主が負う法的な責任は自身が出資した金額を限度とします。つまり、会社の債権者に対して、個人の私財を投じてまで債務の肩代わりする法的義務はありません。この強力な防波堤があるからこそ、投資家は不測の損害を恐れることなく、大胆な事業への投資や新たな市場への挑戦を行うことが可能となります。
しかし、前述の通り、日本の小規模の会社においては、株主(出資者)と取締役(経営者)を同一人物が兼任する例が広く見られます。このようなケースでは、株主としての「有限責任」の恩恵を享受しきれず、経営者個人として実質的に重い責任を負わざるを得ない場面が存在します。
一つ目の例は、資金調達の場面です。日本の金融実務では、小規模会社が銀行等の金融機関から融資を受ける際、代表取締役等の経営者個人に対して「連帯保証人」となること(経営者保証:Personal Guarantee)を要求されるケースがあります。この場合、会社が倒産すれば、経営者は連帯保証債務に基づき、個人資産をもって会社の負債を返済する義務を負います(近年は日本政府のガイドラインにより経営者保証に依存しない融資の促進が図られていますが、依然として実務上は直面しやすい課題です)。
二つ目の例は、経営の失敗が第三者へ波及した場合の法的責任です。取締役には、法令や定款を遵守して忠実に業務を遂行する義務(善管注意義務・忠実義務)が課せられています。もし取締役が、その職務を行うについて「悪意または重大な過失」によって第三者(取引先など)に損害を与えた場合、当該第三者に対して直接、個人の財産から損害賠償を行う責任を負います。これは出資者(株主)としての有限責任の原則とは別の、経営者(取締役)という役職に就く個人に直接課せられた重い法定責任です。
3.株式を所有することの3つの権利
株式を持つということは、単に投資をするだけでなく、法的に守られた強い権利を持つことを意味します。株主の権利は以下の3つです。
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名称 |
権利の内容 |
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意思決定権 Voting Rights |
株主総会において、会社のルール(定款)の変更や、取締役の選任・解任、会社の重要事項の決議に投票する権利です。 |
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利益配当受領権 Dividends |
会社が利益を出したとき、持ち株数に応じて配当を受け取る権利です。日本の会社法では配当は当然に毎年実施されるものではなく、法令上の分配可能額や機関決定を前提とします。 |
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残余財産分配請求権 Liquidation Proceeds |
会社を解散する際、借金をすべて返済した後に残った財産を、持ち株比率に応じて分配してもらう権利です。 |
なお、日本の会社法は比較的柔軟であり、種類株式を発行することで、議決権に制限を設けたり、配当を優先させたりするなど、株主(外資系親会社など)の意向に沿った多様な資本政策を設計することが可能です。
4.日本で一般的な「会社組織モデル」
日本で会社を設立する際、外資系企業が日本に進出をする初期段階においてよく選ばれているのは、取締役会や監査役を置かないシンプルな組織モデルです。
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比較項目 |
シンプルなモデル |
ガバナンス強化型モデル |
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取締役の数 |
1名以上(1名でも設立可能) |
3名以上(取締役会を設置する場合、取締役は3名以上必要。) |
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取締役会 |
なし(決定が非常に速い) |
あり(組織的なチェックが働く) |
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監査役*
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なし(取締役会を設置しない場合は、監査役の設置は任意) |
あり(取締役会を設置している場合、原則として必要) |
*監査役(Corporate Auditor)とは、日本の会社法上定められた監査機関の一つであり、取締役の職務執行を監査する役員です。
5.まとめ
株式会社という仕組みは、リスクをコントロールしながら、日本社会での信頼を得るために非常に有効です。「所有(株主)」と「経営(取締役)」という2つの視点を持つことが、日本でのビジネス成功の鍵となります。
おわりに
日本ビジネス法講座では、今後も日本におけるビジネス進出・展開に役立つ情報を配信してまいります。
また、具体的な案件のご相談につきましては、弊事務所の相談メールまでお気軽にご連絡いただけますと幸いです。
AZ MORE国際法律事務所
日本ビジネス法講座1-03「日本での各種就労ビザ取得の勘所」リリース
日本ビジネス法講座 SERIES 1-03「日本での各種就労ビザ取得の勘所」リリースしました。
SERIES 1-03: 日本での各種就労ビザ取得の勘所
日本でビジネスを開始する際、会社設立の手続と並行して最も重要かつ難易度が高いのが、外国人経営者や従業員の就労ビザ(在留資格)の取得です。
特に、これまで比較的取得がしやすく頻繁に利用されていた、会社の代表として経営を行うための「経営・管理」ビザは、2025年10月に取得許可基準が劇的に厳格化されました。
1.主要な就労ビザの種類と特徴
外国企業が日本に進出する際、主に関係する在留資格は以下の3つです。
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区分 |
在留資格の種類 |
対象者 |
主要な要件・特徴 |
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経営者 |
経営・管理 |
代表者 役員、管理者 |
【2025年10月厳格化】 最もハードルが高いビザ。 資本金3,000万円以上、日本人等の雇用が必須。 経歴や日本語能力も審査対象。 |
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転勤者 |
企業内転勤 |
本社社員等 |
外国の本店・支店に直近1年以上在籍していることが条件。 学歴要件は問われないが、給与水準は日本人と同等以上が必要。 ※実務上、代表者が取得するのは難しい場合がある。 |
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従業員 |
技術・人文知識・国際業務 |
日本でローカル採用する従業員
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一般的な就労ビザ。 大学卒業以上の学歴、または10年以上の実務経験が必要。 単純労働(工場作業、ウェイター等)は不可。 |
2.実務的観点:「経営・管理」ビザの許可基準の劇的な変化(2025年改正)
これまで、外国人が日本で起業する際に比較的多く取得されていた「経営・管理」ビザの許可基準が、2025年10月16日より大幅に引き上げられました。そのため、今後は、「経営・管理」ビザの取得を見据えて日本法人を設立する場合は、この新基準を満たす必要があります。
<新旧要件の比較>
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項目 |
改正前(旧基準) |
改正後(新基準:2025.10〜) |
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資本金 |
500万円以上 |
3000万円以上 (または出資総額3,000万円以上) |
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従業員 |
不要(資本金500万円あれば免除) |
常勤職員 1名以上の雇用が必須 (日本人、永住者、定住者など) |
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日本語 |
要件なし |
日本語能力 N2(B2)相当 (申請人または常勤職員のいずれかが保有) |
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学歴(経歴) |
要件なし |
修士号(MBA等)又は実務経験3年以上 |
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事業計画 |
任意の書式 |
公的専門家(中小企業診断士等)による確認が必須 |
3.他のアプローチ
実務的には、会社設立時の資本金3000万円の準備は設立者にとって非常に大きな障壁となります。そのため、経営・管理ビザ取得の代替方法として、以下のような他のアプローチを検討するケースが増えています。
(1)「企業内転勤」ビザの検討
外国の本社・支店に勤務している社員等を、日本法人に転勤させる場合は、要件の厳しい「経営・管理」ビザではなく、「企業内転勤」ビザで駐在を開始できる可能性があります。ただし、実務上、日本法人の代表者となる人がこの「企業内転勤」ビザを取得するのは難しい場合があります。また、転勤者は過去1年以上の海外本社での勤務実績が必須です。
(2)「高度専門職」ビザの利用
学歴、職歴、年収などでポイント計算を行い、70点以上であれば「高度専門職」ビザを取得できる可能性があります。この場合も会社の事業規模要件は問われますが、永住権取得までの期間短縮などの優遇措置があります。
4.結論
2025年の経営・管理ビザの許可基準の改正により、これまで一般化していた、「日本での経営・管理ビザ取得のためにとりあえず資本金500万円で会社を作る」という手法が通用しなくなりました。
今後は、経営・管理ビザの取得を見据える場合、「3000万円以上の資金調達」と「日本人スタッフの採用計画」を初期段階から確実に戦略に組み込む必要があります。
おわりに
日本ビジネス法講座では、今後も日本におけるビジネス進出・展開に役立つ情報を配信してまいります。
また、具体的な案件のご相談につきましては、弊事務所の相談メールまでお気軽にご連絡いただけますと幸いです。
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