2026-08-24 13:34:24 日本ビジネス法講座
1.コンプライアンス体制構築の重要性
日本の会社法では、大会社に対して内部統制システムの構築を義務付けています。しかし、コンプライアンスが重要なのは大会社だけではありません。中小企業であってもコンプライアンスと内部管理の整備を怠れば企業に深刻なリスクが生じ得ます。
内部統制システムの構築義務がない中小企業や、日本に進出したばかりの外資系企業でも同様で、むしろ体制が整っていない企業ほどリスクが顕在化しやすい傾向にあります。特に海外企業は、文化・商慣習・法制度の違いから「本国では問題にならなかったこと」が日本では大きなリスクとなりがちです。本記事では、最低限押さえるべきポイントをトピックごとに解説します。
2.留意するべきコンプライアンス項目の具体例
(1)税務・会計の管理
設立当初は税務・会計が後回しにされがちですが、ずさんな管理のまま売上が拡大すると、ある時点で突然、国税局や(輸出入があれば)税関の調査で申告漏れ等を指摘され、多額の追徴課税を課されることがあります。売上がまだ小さい設立時から顧問弁護士・税理士に関与してもらい、基礎を整えておくことが、将来の大きなリスクとコストの抑制につながります。
(2) 営業秘密の管理(退職者による持ち出し)
顧客情報や技術・ノウハウが退職者に持ち出される例は後を絶ちません。
日本の不正競争防止法上、情報が「営業秘密」として法的に保護されるには秘密として管理されていること(秘密管理性)等が必要で、日頃適切に管理していなければ、持ち出されても法的保護を受けられません。NDA・誓約書の締結(入社時・退職時)、マル秘表示とアクセス権限の限定、退職時のデータ返却確認といった管理が重要です。
(3)委託先管理(下請法・フリーランス新法)
業務委託には、委託先取引を規律する法律への注意が必要です。いわゆる下請法は代金減額・支払遅延・買いたたき等を禁止しますが、2026年1月に改正・改称され、現在は「取適法(中小受託取引適正化法)」となり規制が強化されました。
また2024年11月施行のフリーランス新法は、個人(特定受託事業者)への委託につき取引条件の明示や報酬の期日内支払(原則60日以内)を義務付け、資本金要件がないため小規模事業者にも適用され得ます。
違反すると公正取引委員会等の指導・勧告や企業名公表のおそれがあり(近年も公表事例が増えています)、契約書・発注書面や支払サイトの整備が求められます。
(4)ハラスメント対策
日本では改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法。2022年4月から中小企業も義務化)により、企業にハラスメント防止措置が義務付けられています。注意すべきは、かつて日本でもハラスメントとして認識されなかった行為が近年ハラスメントと評価される点で、海外企業の役職員が悪意なく行った行為がトラブルになることもあります。以下は日本特有の典型例です。
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事例① 飲み会・飲酒の強要(アルハラ): 懇親会への参加やお酌・飲酒を事実上強制し、断れば「協調性がない」と評価する。かつては「飲みニケーション」として許容されたが、現在はハラスメントに該当し得ます。 |
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事例② 結婚・出産等への言及(セクハラ・マタハラ): 独身社員に「早く結婚しないの?」等と繰り返し発言し、いずれ辞めると決めつけて簡単な仕事しか任せない。本人は「気遣い」のつもりでも該当し得ます。 |
いずれも行為者に悪意がないことが多い一方、日本では従業員側の受け止めが重視されます。リスクは多岐にわたり、①ハラスメントを理由とする労働紛争は少なくなく、従業員が労働基準監督署・労働局に駆け込めば会社は行政対応を迫られます。②被害を訴えた社員を会社都合で解雇すると不利益取扱いとして違法とされやすく、解雇はいっそう困難になります。③放置すれば、会社のみならず取締役個人が善管注意義務違反として損害賠償責任を問われ得ます。④人材流出や口コミによる採用難も生じます。
日本企業では一般に、就業規則・防止規程での禁止行為の明記、相談窓口(通報窓口)の設置、定期的な研修、事実調査・再発防止フローの整備といった対策が講じられています
(5)反社チェック
「反社会的勢力(anti-social forces)」とは暴力団やその関係者等を指します。日本では、各都道府県が「暴力団排除条例(暴排条例)」を定め、反社会的勢力の排除を進めています。暴排条例では、事業者に対して、契約を締結する際に反社条項を定めることが努力義務として定められている場合が多いです。
こうした背景から、契約時に相手方が反社会的勢力でないことを確認し(反社チェック)、契約書に反社条項を入れることは、企業規模を問わず一般的な実務となっています。海外企業からすると見慣れない条項かもしれませんが、日本企業と契約を締結する際には、必ずと言ってよいほどこの条項が挿入されます。
3.まとめ
「内部管理を怠れば深刻なリスクにつながる」という点は、中小企業や進出直後の外資系企業にとっても他人事ではありません。日本で事業を始める際は、早い段階で弁護士・税理士等の専門家に相談し、必要な内部管理体制を整えておくことを強くお勧めします。
おわりに
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